月夜見

   “夏が始まる”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

日本が舞台じゃあないけれど、
衣装や行事や風物詩といった風俗的なところにさんざんと、
和風のあれこれが出て来ておりますグランドジパングでは、
夏の暑さを しのぐ工夫も楽しむ行事も、
やはりやはり日本流と見てよくて。
さすがに水着姿での海水浴とまではいかないが、
子供らはせせらぎで水遊びにいそしむし、
金に不自由のないクチは船遊びに繰り出し、
お母さんがたの 川辺や井戸端でのお洗濯も、他の季節よりは心持ち楽しそう。
着物も爽やかな生地や柄の小袖へと着替えるし、何と言っても夕涼みには浴衣。
本来は湯上がりの水を拭うための着物だったそうだけど、
夏の夕べを楽しむのに打ってつけ、
ちょっと薄手で汗も吸う、着心地のいいのを小粋に着こなし、
長くはないけど寝苦しい夜を、何とか乗り切りましょうぞと、
蛍を追ったり、宵祭りや盆踊りが催されたり、
夜空を焦がす花火を揚げて暑気払いとしたもので。

 「…っていうお楽しみに、何てもんを仕掛けるかなっ。」
 「ひゃああっっ!!」

お城下の皆が楽しみにしている祭りのやぐらを建てる作業が始まって。
盆踊りのとはまた違い、
いろんな祭りへ汎用される“時告げの鐘”を提げるための
火の見やぐらを一回り小さくした塔のよなそれを建てることで、
ああもう夏も本番だねぇと感じることにもなる大事なやぐらだってのに。

 「此処へ仕込めば、
  夏中 誰にも覗かれないと見越したは、
  なかなかの目串だったがなぁ。」

普請の折などに まずはの足場を立ち上げる、
鳶職の若いのに身をやつし、
紅白の布を巻いての、ご祈祷を済ました丸太を組み始めた作業中、
こそりと台座の裏っ側に何かくくりつけてた怪しい奴を発見したのが、
やはりお祭り好きで、やあ祭りのやぐらが建ってるって?と、
見回りの順路からはだいぶ離れる場所だのに、
ついでの見物にと足を延ばしていた麦ワラの親分さん。
鳶仲間が後見役の大将に呼ばれ、
“さあご苦労さん、お神酒を振る舞うから番所まで”と
促されるまま ぞろぞろ去ってゆく中で、
一人ごそごそ片付けに手間取りの、
しまいには立ったばかりのやぐらに潜り込むのが怪しいと、
じいと見つめ続けての、幕の中へも潜り込んで追ってみたらば。
妙な小箱を、やぐらの床にあたる板張りの裏へ
しっかと くくりつけているじゃあないですか。

 「なっ、言い掛かりですよ。
  これは頭領に言われたご祈祷のお札で…。」

 「おいらが棟上げや何や、
  大工の作法を何も知らねぇと思ってデタラメを言うなっ。」

喩えそういう代物でもな、こっそり収めるはずがなかろと、
頬を真ん丸と膨らませ、咬みつくように言い返し。
やぐらというからには結構な高みへよじ登ってた、
身軽には違いない正体不明の男衆へ、
こちらも足場をいくらかは登ったうえで、

 「ゴムゴムのぉ〜っ。」

ピストルッという気合いも雄々しく、
思い切りのいい拳をドカンとぶつけ、大空高く舞わせてやれば。
組まれた丸太の丁度隙間から外へと飛び出した相手が、
ひゅ〜んんっと飛んでったのは鎮守の森の方角で。

 “うあ、やっべ。”

そうだった、やぐらに穴空けたらまずかったよな、反省反省…と。
ぺろり舌を出した親分であり。

 …相変わらずです、向こう見ず。(笑)

無論、こうまで派手な大騒ぎは、
明けっ広げの広場で起きていたものだから、
周囲を通りかかってた人たちへも聞こえていての見物も多数。
怪しい男が飛んでった終盤には、
親分カッコいいという威勢のいい掛け声まで
飛んで来たほどだったのだけれど。

 『まさかに、
  御拝領の短刀なんて おっかないもんだったとはねぇ。』

身分が相当に高い人から賜ったもののことで、
御拝領とまでの言い方をするからには、
将軍や領主などという途轍もない高みから頂いたものを指すのが普通。
こたびのそれも例に漏れずで、
こちらのグランドジパングの領主、ネフェルタリ・コブラ様が
納められた工芸品の見事さへの褒美にとご用達の職人へ遣わした短刀を、
盗み出した盗賊が、だが、関所の検問に引っ掛かるのを恐れ、

 『やぐらの陰へとまずは隠し、
  夏が過ぎての盗難騒ぎが噂としても落ち着いたら、
  この資材を何とか工夫して払い下げに持ち込んで、
  何食わぬ顔で藩の外へ持ち出そうと構えてたって寸法だったらしくてな。』

外から来た盗賊一味の仕業だってよ怖いねぇと、
後日談もきっちり平仄が合っての、大事に至らなくってよかったねと、
事件へもきれいに鳧がつき。
親分さんはご褒美を頂き、やた、これで美味いもんが たらふく食えると、
こちらさんもまた、何とも罪のない笑顔を見せていたものの。


  たとえば、


御拝領の短刀には、
ネフェルタリ・コブラという銘が刻まれてあったのだから、
何かしら大きな大きな“事変”級の騒ぎがあったおり、
現場にそれが転がっていたなれば。
心当たりがあろうとなかろうと、
大目付から痛くもない腹を探られるは必定だとか。

 “そういう腹黒な大タヌキが
  相変わらずの虎視眈々、狙ってもいる藩だからなぁ。”

何の落ち度もないのは間違いないし、特に恨みなんてない。
ただ、財政的に潤っているのが気掛かりで、
いつ叛旗を翻しての手ごわい敵となるやも知れぬから、
先んじて弱みを握っておきましょうなんていう、
とんでもない独善的な理屈からの、
あくどい罠を仕掛ける“いやな大人”は後を絶たないので。

 「それで、親分さんに“やぐらが建つそうですよ”と話をし、
  自分も見物に運びますなんて水を向けた…とはね。
  あなたにしては随分と珍しく、策を弄したものだわ。」

川辺をわたる風が心地いい中、
長い黒髪を涼しい潤みにさらりと揺らし。
冴えた印象のする横顔もなかなかに婀娜な、
ちょっと年上のお姉さんがくすすと微笑って話しかけたは。
擦り切れたまんじゅう笠がまずは目立つため、
実は屈強な肢体であることを なかなか気づかれぬ、
この城下にも随分と長居の とある雲水さんだったりし。

 「………。」

油を染ませたようなとはよく言ったもので、
そりゃあ目映い陽の強さに拮抗して一歩も引かぬ、
そりゃあ濃密な色合いの青がムラなく広がる真夏の空の下。
門口に立ってお経でも読むならともかく、
川べりに立ち、足元に短い陰を色濃く落として佇むぼろんじになぞ、
まずは誰も関心なぞ寄せないものだから。
その傍らに架かる小さな橋の桁の下、
身を潜めて話しかけている存在があろうなど、
ますますと気づかれちゃあいないこと。
そんな秘密裏の会見の中で、

 「今回は本当にありがとう。」

こんなことを望んじゃあいないのでしょうけどと言いつつ、
おもちゃの小船を浮かべ、雲水殿のお手元へ流せば、
相手も無言で…乗せられてあった紙の包みだけを手に取った。
あからさまなのが無粋で悪いが、
使えばなくなる金子が一番後腐れもないのは定石と。
お礼を渡してそのまま立ち上がるロビンさんであり。

 “親分を立役者にするなんて、
  ホントは気が進まなかったんでしょうにね。”

お手柄が増えるのは問題ないのだが、
こちらのお姉さんくらいとなれば、その先も想定のうち。
いやに目の利く岡っ引きだと、
周辺地域に巣食う悪党らからの評価へ
余計な肩書が増えかねぬのが気掛かりで。
とはいえ、こたびの一件は、
大々的に見つけたりと見破った方が、
小細工を構えた筋への忠告にもなったので。
だったら…と、
親分にその役者を振ったお坊様こと公儀の隠密さんだったようで。

 「…あ、おーい、ゾロ〜っ。」

それは伸びやかなお声が聞こえ、
遠くから自分を見つけたらしい親分さんが、
ご陽気な笑顔のまんま、そりゃあ元気よく駆けてくる。
難しいことはよく判らないけれどと言いつつ、
あくまでも自分に素直に、悪党を蹴倒し吹っ飛ばして来た彼であり。
それはまるで、頭上に広がる曇りのない青空と同じ理。
燦然と輝く、溌剌と眩しい夏のお天道様がおわすに相応しい場所であり。

 ではと顧みた自分は、
 残念ながら、同じく明るい組み合わせの存在には到底なれぬなと。
 ゾロもまた、
 ロビンと同じく…自分の立場を重々とわきまえてはおり。

面倒なことよと辟易しながらも、
それがこの藩へ悪い影響を及ぼさぬよう見張るためならば、
卑劣狡猾な手段というやつを、逐一警戒するし、予測も建てる、嗅ぎ回りもする。
そんな悪事に通じている身の自分は、
せいぜい、この足元に落ちる色濃い陰に過ぎないなと、

 「……。」

その足音を苦々しく見下ろしておれば、

 「何だよ、
  今日はやぐらまで伸してくって言ってたじゃんかよ。」

ばたばたばたっと駆けて来た、そりゃあお元気な親分、
約束を違(たが)えたなと膨れてから、だが、

 「けどな、何か騒ぎになっちまってたから、
  来ててもゆっくり話とか出来なかったかもだけど。//////」

顔は見れてもそんだけになるより、
全部を片付けての今 会えてるほうが良かったかもなんて。
ちょっぴり折り行った次第を持ち出し、
てへへと嬉しそうな顔をするルフィだったりするものだから。

 「…そうすか。騒ぎがねぇ。」

怪我とかなかったっすか? それは重畳。
活躍したんなら見たかったなぁなんて、
くつくつと笑みがこぼれたは、決して作ってのものじゃあなくて。

 “自惚れてもいいのかねぇ。”

こうまで目映いお天道様から、
顔を見ないと詰まらないと、
好いたらしいと慕われてるようだってこと。
ちょいと強気に、自覚してしまってもいいのかなと。
こたびは初めて意識してしまった、お坊様だったらしいです。





    〜Fine〜  13.07.27.


  *途轍もない級の真夏に辟易しちゃってる大人は、
   お元気な子供にうんざりしつつも、
   何らかの格好で元気を分けてもらっているものだと言いたかったのですが。
   理屈をひねり過ぎて良く判らない仕立てになっちゃいましたな。
   ややこしい事件を持ち出したのが敗因のようです。
   これだから、物事素直に見られん大人は…。
   つか、別に
   ゾロでシリアス書いてもいいんですよね、実際の話。(こらこら)


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